今回はSIGの大きな転機となった作品、P220を。
概要
P220はDA(ダブルアクション=トリガーがハンマーを起す機能も持つ),
デコッキング(ハンマーをDA位置まで落とす)レバーを持つ単列弾倉の
大型軍用自動装填式拳銃だ。
一般的な手動式かつ独立した機能を持つ安全装置を廃し、操作がシンプル
な事が特徴である。
また9×19(パラベラム,ルガー),45ACP,38スーパー,.30ルガーの
4つのカートリッジ仕様を持つ世界戦略機種であり、チャンバー(薬室)
部をスライドに噛み合わせてロックするという、以後世界中で模倣された
画期的な機構と、プレス鋼板,アルミ鍛造+切削フレームなどの製法,
素材の斬新(当時)さをも持つ、正にエポックメイキングな製品だった。
派生モデルとしてスタガードカーラムマガジン(複列弾倉)を採用した
P226、コンパクトモデルのP225など、多くのモデルが作られ、また
P220自体も改良されながら現在も生産されている人気モデルである。
ここでも過去、P226,P228などを取り上げており、ロッキングシステム,
SIGのP210からGSRまでのラインナップなどは、P226の記事を、
スライドのプレス鋼板+ブロック蝋付け製法とSIG各モデルの
エキストラクターの変遷などは228の記事を参照されたい。
1/1
P220はMGCからモデルガン、コクサイからガス,エアコッキングガン、
タナカからガスBLKとモデルガンが発売され、LSからもエア
コッキングガンが出ていたようだ。
左から、タナカ 航空自衛隊モデル(ガスガン)、タナカ コマーシャル(モデルガン)、
MGC(モデルガン)のP220。
MGCはフレームがグレイに塗り分けられ、素材の違いを演出している。
タナカはプレス鋼板スライドのコマーシャルモデルのほか、日本の
ミネベアでライセンス生産された自衛隊仕様も作っており、この
スライド形状は、削り出したもの(模型は全てキャストだが)の
ようである。
コクサイとMGCは、タナカの2種類とは違う形で、プレス製と削り出し
の中間のようである。
モデルアップしたのが1社ではないので、このような形状のスライドが
実在したのか、それとも以前のハイパトなどのように、コクサイがMGC
オリジナルの形をコピーしたか、だと思われる。
1/6
今回の1/6は、ドラゴンが作りプラッツが販売(企画もここかもしれない)
した陸上自衛隊員フィギュアの付属品だ。可動部分は無い(もしくは固着)
が、マズル(銃口)だけでなく、リコイルスクリング(複座ばね)ガイド
の中空穴まで再現されており、非常にリアルだ。
この形は、タナカ製のリアルサイズと同じく削り出しのミネベア製
スライドを模している(比較はタナカ製コマーシャルタイプ)。
開発の契機
今回は、開発の経緯を追って、P220の各要素を考えたい。
スイスは国民皆兵の自軍が国内で武器を調達できるよう、SIGにライフル,
拳銃の開発をさせて採用していた。
ちなみにSIGはもともと鉄道関係の会社だったらしく、2000年には武器
部門を売却、現在は包装機械メーカーとなっているという。武器部門は
スイスアームズとなり、米国シグアームズもシグザウエルとなっている
が、銃器製造,販売を継続している。
スイス軍制式で、SIGの量産拳銃第一号となったP210(制式名SP47/8)
は、高い工作精度で名銃と呼ばれたが、その生産コストは高く、1970
年代に入ってスイス軍は単価の安いものを要求、そこでSIGはP210の
スライドをプレス加工で作る試みを行ったが、コストダウン効果は
少なく、精度に問題も出たため、全く新しい次世代の拳銃を新規開発
することにしたという。
P210(左 MGCモデルガン)とP220(タナカ モデルガン)。
機構の刷新
まず製法だが、P210改良で断念したプレス鋼板の利用は、ロッキング
システムの改良も含めてP220で実現、アルミフレームも、一次工程で
鍛造して成形し、切削工程を減らすなど、生産コストの低減を図る。
P220(タナカ モデルガン)とH&K HK4(頑住吉 モデルガン)で、スライド形状の比較。
どちらも実銃はプレス鋼板とマズル付近のブロックを持つが、スライド溝を削っているSIG
に対し、H&Kは打ち出し(2か所下部が凹んでいるのがそれ)で成形している。
前身となるP210は戦後すぐの設計だが、当時の世界標準を考えると、
スペックでも決して見劣りするものではない。
ドイツはP1(P38の改良型)でDAを備えていたが、米国はM1911A1でSA
(シングルアクション=引き金はハンマーを落とす操作しかできない)、
装弾数も7+1発である。
イタリアのベレッタもまだM1951でSA,装弾数8+1発、ベルギーの
ブローニングハイパワー,フランスのMAB P15は複列弾倉で装弾数こそ
多いものの、SAだった。
よってスイス軍からの要望はまずコスト、だったが、SIGは以下に述べる
開発費回収の問題から、新型ピストルは世界戦略機種で、次世代の
スタンドードとなる機構を考えた。
この当時、DAを備えた自動装填式はワルサーP38(P1)、S&WM39が
あった。また、これらは共にアルミフレームを当時既に採用していた。
アルミフレーム,DA機構を持つS&W M39(左 MGCモデルガン)とP220(タナカ モデルガン)。
他に、H&KはP9,P9Sを開発してきており、未来の軍用拳銃はDAが
スタンダードになる、という読みもあったと思う。
新型となるP220は、アルミフレーム,DAを搭載し、更に口径を45ACP
まで含むものとして登場する。
ライセンス生産の検討
しかし、開発コストを新型軍用拳銃に転嫁させた場合、需要は決して
多くないため、大幅に製造コストを低減させても結局高価になって
しまう。
スイスは国内企業の武器輸出も禁じているため、製品を輸出して大量に
販売し、開発コストを回収することも出来ない。
そこでSIGは新型拳銃の製法を見直し、容易に他国,他社でも作れる
ものとし、更に製造技術もふくめた技術供与を行い、ライセンス料で
開発費を回収するという方法を考えた。
これには後に(1982年)日本が応じ、自衛隊向けにミネベアが生産,
供給している。
P220コマーシャル(タナカ モデルガン)と航空自衛隊仕様(タナカ ガスガン)で、
スライド形状,刻印の違いを。
余談だが、この製造の容易さからか、各国で無断コピーまで作られる、
という状況もある。
日本も自国の消費量が少なく、輸出もできない事情は同じだ。
P220採用前に開発した試作では、M1911を9ミリ化しただけのようなM57、
SAだがSIGのロッキングシステムを模倣したM57A1などを作っていた。
開発協力と米国市場
更に開発時点から国外の提携先を探し、提携先で生産したものをその国で
売るだけでなく、輸出して販売数を増す、という計画を立てた。
輸出のターゲットは最大のハンドガン市場、米国だ。DAの採用は、
これからの軍用スタンダード、というだけでなく、大口径の市場でまだ
少数派の最新スペックを持たせ、販売にも貢献する事が期待されたのでは
ないかと思う。
特に45ACP仕様は、米国で競争力を持たせるために選ばれたのだと思う。
P220は外観がゴツくみえるが、これは最初から45ACP仕様と共通の
フレームで開発されたためで、画像のようにM1911
(CAW 戦前ナショナルマッチ)のマガジンが途中までP220に入り、
P220のマガジンもM1911に入るサイズになっている
(画像横のカートリッジは、左が9×19、右が45ACP)。
提携先
その開発提携先だが、ドイツの老舗、ザウエル&ゾーン(以下ザウエル)
社を選んだ。
SIGは資金を出してザウエルを傘下に収め、グループ企業として共同開発
を進める。
ザウエルは1751年創業の、現存する最も旧い銃器メーカーとも言われる
ところで、自動装填式拳銃も独自のポケットオートM1913を作り、戦前
(WWⅡ=第二次世界大戦)にはワルサーPPに対抗してM38Hというモデル
を開発し、ドイツ軍にも採用されている。
だが、戦後はPPシリーズに加えP38も開発したワルサーの後塵を拝し、
自動装填式は諦め、回転式の拳銃や猟銃のOEM生産(米ウエザビーの
マークⅤライフルもザウエル製らしい)でしのいでいた。
もっとも、戦前DAを実現していたメーカーは、チェコなど当時の共産圏
を除くとワルサー,モーゼル,ザウエルくらいしかなく、モーゼルと
そこから独立したH&K、ワルサーは既に拳銃製造を始めていたので、
残るパートナー候補、ということでザウエルが選ばれた、という面もある
かもしれない。
またザウエルが戦前M38Hで実現していたデコッキングレバーは、他に例を
見ないシステムで、もしかするとSIGはこれを評価していたからザウエルと
手を組んだのかもしれない。
画期的な安全装置
SIG/ザウエルは、P220で画期的な操作系を考案、提唱した。
M38Hで実現していたデコッキングレバーを採用し、手動式のセフティ
レバーは廃するのである。
MGCモデルガンで、デコッキングレバーと、スライドストップを図示してみた。
P210ではセフティレバーがあったところにデコッキングレバーが配されている。
手動式で独立した安全装置の代わりに、ファイアリングピン(撃針)は
トリガーを引ききるまでブロックされ、暴発しない機構になっている。
しかしハンマーコッキング状態では、軽くトリガーを引けば落ちるため、
デコッキングレバーを使ってハンマーダウン状態に戻し、更に安全性を
高めることとした。
もちろん、DAなので、その状態からでもトリガーを引けば(装弾されて
いれば)弾は出る。
これはコスト削減の効果もあっただろうが、むしろ操作性の向上
(セフティ操作を不要とした)を狙ったものだと思われる。
特に実戦では極度の緊張を強いられ、通常時は忘れるはずの無い操作、
セフティ解除さえ忘れる場合がある。
一般的には安全性を優先し、手動安全装置を設けているが、それこそ
映画やTVの1シーンのように、“安全装置を解除できず、撃てない”
といった事態は、P220では起こらないのだ。
手動セフティの省略は、公用では一部改修を迫られることもあったが、
安全装置についてはうるさい我が国の自衛隊も、P220はこのまま採用
している。
評価
P220の米国での評価は当初低かったという。
これは、M1911系に馴れたユーザーが操作の違いに戸惑った(実際
マガジンキャッチは後にボタン式に変更された)、アルミの素材に対する
信頼性に疑問符が付いた、など様々な要素があったと思う。もともと
米国市場は当時まだリボルバーが幅をきかせるなど、保守的な傾向が
強かった。
P220は、最初ザウエルで作ったものが米ブローニング社からBDAとして
発売され、1985年にSIG/ザウエルが米国進出してシグアームズを作り、
SIG SAUERブランドで売るようになった。
P220はP210に比べると廉価版という位置づけだが、生産方式による
コストダウンであり、仕上げも非常に良かったという。
またスライドとフレームの結合部を前後に広くとるなど、構造上も優れた
もので、アルミの疲労対策に鉄製ブロックを埋め込むなど配慮され、
工作精度も高かったため、命中精度の悪化も少なかった。
P210(MGC モデルガン)とP220(タナカ モデルガン)で、スライド分解の状態。
スライドとフレームの噛み合わせは逆(P210ではスライドにフレームが被さる形)
だが、共にフレーム上部の全長に渡って溝がある。
後に米国制式拳銃トライアルで複列式に改めたP226が健闘し、この評判
から警察関係や一般市場でも受け入れられ、ようやく軌道に乗ったよう
である。
また、このトライアルを機に、欧州製オートが米国でも広く受け入れられ、
40SWなど口径の変化はあるが、とうとうリボルバーをマイナーな立場へ
と追いやった、という情勢も味方した。
ベレッタM92F(マルシン モデルガン)とP220(タナカ ガスガン)。
ベレッタはM92Fで米軍制式を得、SIG/ザウエルと共に米国進出を成功させた。
1970年代からのSIGの壮大な長期戦略は、途中変更もありながら結果と
してはP226などシリーズが大成功を納めた。
SIGは、ポリマーフレームのハンマー式SIGPROシリーズ、P250シリーズ
など、新しいラインナップも持つが、P210同様、クラシックとなった
P220シリーズがまだ現役である。
SIGとしては現在事業を売却しているが、米国進出を果たし、一大トップ
メーカーに成長した。
P220(左)と、そのコンパクト複列弾倉モデルP228(中央)、P229(右)。
これらは全てタナカ ガスガン。
スライド製法がP229では削り出しになり、形状も大きく変わっている。
対して、日本では独自開発も成功しておらず、そのSIG/ザウエルの
ライセンス生産に甘んじた。
一方自衛隊は海外でも展開するようになり、中立というより米国同盟と
なり、とうとうイスラム原理主義者のテロ目標にまでされている。
煮え切らない、というより(外から見て、だが)欺瞞的な非軍備体制は、
これから外国での邦人救出など、多くの問題を抱えている。
自衛隊の呼称を変えないことが平和につながる、などと思うのは、自分達
の“独りよがり”かも知れないことを、少し考えてもらいたいものである。
本当に武装を放棄するなら、以前もここで書いたが、国ごと全て失う覚悟
と、それを全ての国民に納得させることが必要である。
護るなら護る、自決(しないと占領され、他への攻撃に駒として利用
されるので、他国にまで危害が及ぶ)して果てるなら果てる、を
そろそろはっきりさせないと、被害は拡大する一途なのではないだろうか。
話が逸れた。今年はできるだけ次回の予定も書いていこうと思う。
次はアサルトライフルの始祖ともいわれる、stg44を予定している。
それでは今回はここらへんで。
概要
P220はDA(ダブルアクション=トリガーがハンマーを起す機能も持つ),
デコッキング(ハンマーをDA位置まで落とす)レバーを持つ単列弾倉の
大型軍用自動装填式拳銃だ。
一般的な手動式かつ独立した機能を持つ安全装置を廃し、操作がシンプル
な事が特徴である。
また9×19(パラベラム,ルガー),45ACP,38スーパー,.30ルガーの
4つのカートリッジ仕様を持つ世界戦略機種であり、チャンバー(薬室)
部をスライドに噛み合わせてロックするという、以後世界中で模倣された
画期的な機構と、プレス鋼板,アルミ鍛造+切削フレームなどの製法,
素材の斬新(当時)さをも持つ、正にエポックメイキングな製品だった。
派生モデルとしてスタガードカーラムマガジン(複列弾倉)を採用した
P226、コンパクトモデルのP225など、多くのモデルが作られ、また
P220自体も改良されながら現在も生産されている人気モデルである。
ここでも過去、P226,P228などを取り上げており、ロッキングシステム,
SIGのP210からGSRまでのラインナップなどは、P226の記事を、
スライドのプレス鋼板+ブロック蝋付け製法とSIG各モデルの
エキストラクターの変遷などは228の記事を参照されたい。
1/1
P220はMGCからモデルガン、コクサイからガス,エアコッキングガン、
タナカからガスBLKとモデルガンが発売され、LSからもエア
コッキングガンが出ていたようだ。
左から、タナカ 航空自衛隊モデル(ガスガン)、タナカ コマーシャル(モデルガン)、
MGC(モデルガン)のP220。
MGCはフレームがグレイに塗り分けられ、素材の違いを演出している。
タナカはプレス鋼板スライドのコマーシャルモデルのほか、日本の
ミネベアでライセンス生産された自衛隊仕様も作っており、この
スライド形状は、削り出したもの(模型は全てキャストだが)の
ようである。
コクサイとMGCは、タナカの2種類とは違う形で、プレス製と削り出し
の中間のようである。
モデルアップしたのが1社ではないので、このような形状のスライドが
実在したのか、それとも以前のハイパトなどのように、コクサイがMGC
オリジナルの形をコピーしたか、だと思われる。
1/6
今回の1/6は、ドラゴンが作りプラッツが販売(企画もここかもしれない)
した陸上自衛隊員フィギュアの付属品だ。可動部分は無い(もしくは固着)
が、マズル(銃口)だけでなく、リコイルスクリング(複座ばね)ガイド
の中空穴まで再現されており、非常にリアルだ。
この形は、タナカ製のリアルサイズと同じく削り出しのミネベア製
スライドを模している(比較はタナカ製コマーシャルタイプ)。
開発の契機
今回は、開発の経緯を追って、P220の各要素を考えたい。
スイスは国民皆兵の自軍が国内で武器を調達できるよう、SIGにライフル,
拳銃の開発をさせて採用していた。
ちなみにSIGはもともと鉄道関係の会社だったらしく、2000年には武器
部門を売却、現在は包装機械メーカーとなっているという。武器部門は
スイスアームズとなり、米国シグアームズもシグザウエルとなっている
が、銃器製造,販売を継続している。
スイス軍制式で、SIGの量産拳銃第一号となったP210(制式名SP47/8)
は、高い工作精度で名銃と呼ばれたが、その生産コストは高く、1970
年代に入ってスイス軍は単価の安いものを要求、そこでSIGはP210の
スライドをプレス加工で作る試みを行ったが、コストダウン効果は
少なく、精度に問題も出たため、全く新しい次世代の拳銃を新規開発
することにしたという。
P210(左 MGCモデルガン)とP220(タナカ モデルガン)。
機構の刷新
まず製法だが、P210改良で断念したプレス鋼板の利用は、ロッキング
システムの改良も含めてP220で実現、アルミフレームも、一次工程で
鍛造して成形し、切削工程を減らすなど、生産コストの低減を図る。
P220(タナカ モデルガン)とH&K HK4(頑住吉 モデルガン)で、スライド形状の比較。
どちらも実銃はプレス鋼板とマズル付近のブロックを持つが、スライド溝を削っているSIG
に対し、H&Kは打ち出し(2か所下部が凹んでいるのがそれ)で成形している。
前身となるP210は戦後すぐの設計だが、当時の世界標準を考えると、
スペックでも決して見劣りするものではない。
ドイツはP1(P38の改良型)でDAを備えていたが、米国はM1911A1でSA
(シングルアクション=引き金はハンマーを落とす操作しかできない)、
装弾数も7+1発である。
イタリアのベレッタもまだM1951でSA,装弾数8+1発、ベルギーの
ブローニングハイパワー,フランスのMAB P15は複列弾倉で装弾数こそ
多いものの、SAだった。
よってスイス軍からの要望はまずコスト、だったが、SIGは以下に述べる
開発費回収の問題から、新型ピストルは世界戦略機種で、次世代の
スタンドードとなる機構を考えた。
この当時、DAを備えた自動装填式はワルサーP38(P1)、S&WM39が
あった。また、これらは共にアルミフレームを当時既に採用していた。
アルミフレーム,DA機構を持つS&W M39(左 MGCモデルガン)とP220(タナカ モデルガン)。
他に、H&KはP9,P9Sを開発してきており、未来の軍用拳銃はDAが
スタンダードになる、という読みもあったと思う。
新型となるP220は、アルミフレーム,DAを搭載し、更に口径を45ACP
まで含むものとして登場する。
ライセンス生産の検討
しかし、開発コストを新型軍用拳銃に転嫁させた場合、需要は決して
多くないため、大幅に製造コストを低減させても結局高価になって
しまう。
スイスは国内企業の武器輸出も禁じているため、製品を輸出して大量に
販売し、開発コストを回収することも出来ない。
そこでSIGは新型拳銃の製法を見直し、容易に他国,他社でも作れる
ものとし、更に製造技術もふくめた技術供与を行い、ライセンス料で
開発費を回収するという方法を考えた。
これには後に(1982年)日本が応じ、自衛隊向けにミネベアが生産,
供給している。
P220コマーシャル(タナカ モデルガン)と航空自衛隊仕様(タナカ ガスガン)で、
スライド形状,刻印の違いを。
余談だが、この製造の容易さからか、各国で無断コピーまで作られる、
という状況もある。
日本も自国の消費量が少なく、輸出もできない事情は同じだ。
P220採用前に開発した試作では、M1911を9ミリ化しただけのようなM57、
SAだがSIGのロッキングシステムを模倣したM57A1などを作っていた。
開発協力と米国市場
更に開発時点から国外の提携先を探し、提携先で生産したものをその国で
売るだけでなく、輸出して販売数を増す、という計画を立てた。
輸出のターゲットは最大のハンドガン市場、米国だ。DAの採用は、
これからの軍用スタンダード、というだけでなく、大口径の市場でまだ
少数派の最新スペックを持たせ、販売にも貢献する事が期待されたのでは
ないかと思う。
特に45ACP仕様は、米国で競争力を持たせるために選ばれたのだと思う。
P220は外観がゴツくみえるが、これは最初から45ACP仕様と共通の
フレームで開発されたためで、画像のようにM1911
(CAW 戦前ナショナルマッチ)のマガジンが途中までP220に入り、
P220のマガジンもM1911に入るサイズになっている
(画像横のカートリッジは、左が9×19、右が45ACP)。
提携先
その開発提携先だが、ドイツの老舗、ザウエル&ゾーン(以下ザウエル)
社を選んだ。
SIGは資金を出してザウエルを傘下に収め、グループ企業として共同開発
を進める。
ザウエルは1751年創業の、現存する最も旧い銃器メーカーとも言われる
ところで、自動装填式拳銃も独自のポケットオートM1913を作り、戦前
(WWⅡ=第二次世界大戦)にはワルサーPPに対抗してM38Hというモデル
を開発し、ドイツ軍にも採用されている。
だが、戦後はPPシリーズに加えP38も開発したワルサーの後塵を拝し、
自動装填式は諦め、回転式の拳銃や猟銃のOEM生産(米ウエザビーの
マークⅤライフルもザウエル製らしい)でしのいでいた。
もっとも、戦前DAを実現していたメーカーは、チェコなど当時の共産圏
を除くとワルサー,モーゼル,ザウエルくらいしかなく、モーゼルと
そこから独立したH&K、ワルサーは既に拳銃製造を始めていたので、
残るパートナー候補、ということでザウエルが選ばれた、という面もある
かもしれない。
またザウエルが戦前M38Hで実現していたデコッキングレバーは、他に例を
見ないシステムで、もしかするとSIGはこれを評価していたからザウエルと
手を組んだのかもしれない。
画期的な安全装置
SIG/ザウエルは、P220で画期的な操作系を考案、提唱した。
M38Hで実現していたデコッキングレバーを採用し、手動式のセフティ
レバーは廃するのである。
MGCモデルガンで、デコッキングレバーと、スライドストップを図示してみた。
P210ではセフティレバーがあったところにデコッキングレバーが配されている。
手動式で独立した安全装置の代わりに、ファイアリングピン(撃針)は
トリガーを引ききるまでブロックされ、暴発しない機構になっている。
しかしハンマーコッキング状態では、軽くトリガーを引けば落ちるため、
デコッキングレバーを使ってハンマーダウン状態に戻し、更に安全性を
高めることとした。
もちろん、DAなので、その状態からでもトリガーを引けば(装弾されて
いれば)弾は出る。
これはコスト削減の効果もあっただろうが、むしろ操作性の向上
(セフティ操作を不要とした)を狙ったものだと思われる。
特に実戦では極度の緊張を強いられ、通常時は忘れるはずの無い操作、
セフティ解除さえ忘れる場合がある。
一般的には安全性を優先し、手動安全装置を設けているが、それこそ
映画やTVの1シーンのように、“安全装置を解除できず、撃てない”
といった事態は、P220では起こらないのだ。
手動セフティの省略は、公用では一部改修を迫られることもあったが、
安全装置についてはうるさい我が国の自衛隊も、P220はこのまま採用
している。
評価
P220の米国での評価は当初低かったという。
これは、M1911系に馴れたユーザーが操作の違いに戸惑った(実際
マガジンキャッチは後にボタン式に変更された)、アルミの素材に対する
信頼性に疑問符が付いた、など様々な要素があったと思う。もともと
米国市場は当時まだリボルバーが幅をきかせるなど、保守的な傾向が
強かった。
P220は、最初ザウエルで作ったものが米ブローニング社からBDAとして
発売され、1985年にSIG/ザウエルが米国進出してシグアームズを作り、
SIG SAUERブランドで売るようになった。
P220はP210に比べると廉価版という位置づけだが、生産方式による
コストダウンであり、仕上げも非常に良かったという。
またスライドとフレームの結合部を前後に広くとるなど、構造上も優れた
もので、アルミの疲労対策に鉄製ブロックを埋め込むなど配慮され、
工作精度も高かったため、命中精度の悪化も少なかった。
P210(MGC モデルガン)とP220(タナカ モデルガン)で、スライド分解の状態。
スライドとフレームの噛み合わせは逆(P210ではスライドにフレームが被さる形)
だが、共にフレーム上部の全長に渡って溝がある。
後に米国制式拳銃トライアルで複列式に改めたP226が健闘し、この評判
から警察関係や一般市場でも受け入れられ、ようやく軌道に乗ったよう
である。
また、このトライアルを機に、欧州製オートが米国でも広く受け入れられ、
40SWなど口径の変化はあるが、とうとうリボルバーをマイナーな立場へ
と追いやった、という情勢も味方した。
ベレッタM92F(マルシン モデルガン)とP220(タナカ ガスガン)。
ベレッタはM92Fで米軍制式を得、SIG/ザウエルと共に米国進出を成功させた。
1970年代からのSIGの壮大な長期戦略は、途中変更もありながら結果と
してはP226などシリーズが大成功を納めた。
SIGは、ポリマーフレームのハンマー式SIGPROシリーズ、P250シリーズ
など、新しいラインナップも持つが、P210同様、クラシックとなった
P220シリーズがまだ現役である。
SIGとしては現在事業を売却しているが、米国進出を果たし、一大トップ
メーカーに成長した。
P220(左)と、そのコンパクト複列弾倉モデルP228(中央)、P229(右)。
これらは全てタナカ ガスガン。
スライド製法がP229では削り出しになり、形状も大きく変わっている。
対して、日本では独自開発も成功しておらず、そのSIG/ザウエルの
ライセンス生産に甘んじた。
一方自衛隊は海外でも展開するようになり、中立というより米国同盟と
なり、とうとうイスラム原理主義者のテロ目標にまでされている。
煮え切らない、というより(外から見て、だが)欺瞞的な非軍備体制は、
これから外国での邦人救出など、多くの問題を抱えている。
自衛隊の呼称を変えないことが平和につながる、などと思うのは、自分達
の“独りよがり”かも知れないことを、少し考えてもらいたいものである。
本当に武装を放棄するなら、以前もここで書いたが、国ごと全て失う覚悟
と、それを全ての国民に納得させることが必要である。
護るなら護る、自決(しないと占領され、他への攻撃に駒として利用
されるので、他国にまで危害が及ぶ)して果てるなら果てる、を
そろそろはっきりさせないと、被害は拡大する一途なのではないだろうか。
話が逸れた。今年はできるだけ次回の予定も書いていこうと思う。
次はアサルトライフルの始祖ともいわれる、stg44を予定している。
それでは今回はここらへんで。