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今回はモーゼルの傑作ポケットピストル、HScを。
hsc/01

予め断っておくが、今回も記事が長くなってしまった。
HScは現在忘れかけられている?存在だが、多くのモデルに影響を与え、
また美しいデザインは、今も見るものを魅了すると思う。
そのためつい得られた資料を出来るだけ盛り込んでしまった。
最後までお付き合い願えれば幸いである。

[概要]
モーゼルHScは、32ACP(=7.65×17mm 戦後380ACPも作られた)を使う、
DA(ダブルアクション=引き金を引くとハンマーが起きて、更に引くと
ハンマーが落ちて撃発する)機構を持った中型自動装填式拳銃である。
外観上、HScの大きな特徴は三角状のトリガーガード(引き金の保護部
=用心鉄)で、グリップのチェッカーもこれに呼応した三角状に彫られている。
全体に直線,特に斜めのラインを多用し、グリップの曲線が強調された、
美しく女性的と評されるスタイルである。

[マルシンHSc]
トイガンでは過去に金属製モデルガンでMGC,コクサイから発売されたが、
現在はマルシンがスライド固定のガスガンを作るのみである。
マルシンのHScもブリスターパック入り、ハーフシルバーやサイレンサー付き
タイプと変化していったが、これは過去に販売されたHWモデル。
スライドは固定だがフレームとは別部品で、セフティがライブ、但しトリガーは
直線運動である。
hsc/02

[HScとモーゼルの歴史]
設計はアレックス・セイデル(Alex Seidel)が担当し、1935~1936年に
行ったようだ。
モデル名のHSはHahn Selbspanner、ダブルアクションの意だとされている。
それからHSa,HSbと試作が進み、3番目のHScが製品版となっている。
製造は1940年から戦争終結まで、戦後はフランスで残ったパーツを組み、
1947年まで出荷していたようである。

この間約25万(22.5万との説も有り)丁が作られ、そこでモーゼル社の
解体を受けて一旦製造は終わる。
この数は、FN社のM1900の100万丁に比べれば小さいが、ワルサーPP,
PPKが両方で35万丁、とのことなので、決してマイナーな存在では
無かったようである。

初期のHScは美しい仕上げで、グリップパネルにはクルミ材が
使われていた。
モーゼルは戦後H&K(ヘッケラー&コッホ)社から独立した会社として復活、
新生モーゼルでも、HScは作られ、これは’68から‘77までとか。
’77には最後の5000丁が特別モデルとして作られている。
戦後のHScは省力化のため、マイナーチェンジを受け、木製グリップでも、
全面に近い範囲がチェッカーとなっている。

その後、イタリアのレナートガンバ社がHScをOEM生産、販売のみ
モーゼルが行っていたようだ。
レナートガンバでは、HScの改良に取り組み、HScスーパー(HSc80)
というものを作った。
これは装弾数を増やし、トリガーガードをフィンガーレスト付きに変更する
など、デザインも小変更されている。

モーゼルもSIGグループに買収され、現在はロータリーバレルによる
ショートリコイルの45口径コンパクトM2を販売している。

モーゼルの代表作、ミリタリー(左)とHSc。
これはマルシンのモデルガン M712。
hsc/03

[ポケットピストルの流行]
20世紀の初め、不安な世情のせいもあってか、ポケットピストルは
大流行した。
モーゼル社は軍用のライフルKar98kや大型の自動装填式拳銃C96などが
有名だが、ポケットモデルもM1910(25ACP),M1914(32ACP),M1934
(M1914のグリップ拡大改良型)などを作っていた。
これらは、ストライカー式シングルアクションで手動安全器を備えたモデルで、
スペック的にはこのカテゴリーのパイオニア、FNのM1900に準じたものだった。

左から、HSc,FN M1910,M1900。
M1910もマルシンのモデルガン。
M1900は頑住吉氏のモデルガン形式ガレージキット。
hsc/07

しかし各種の安全機構にDA機構も備えたワルサーPPが1929年に登場、
民間用だけでなくナチス親衛隊,軍(将校)用に高い評価を受けるようになる。
ワルサーに対抗するため、モーゼルでもDAの32口径中型オートの開発に
乗り出し、このHScを完成させた。
同じ時期、ドイツでは後にSIGと組むザウエル&ゾーン社も、M38Hという
DAオートを作っている。

HSc(右)とワルサーPP。
PPもマルシンのモデルガン。
今回マルシン製が多いが、これはHScに限らず、マルシンが幅広く、
WWⅡまでのモデルをラインナップしているから。
hsc/04

これは単に競争原理だけでなく、ナチスがワルサーの供給量の限界から、
他社に働きかけて同様の製品の開発を促した、とするところもある。

しかし、これは額面通り受け取り難い。当時はまだ品質も落ちておらず、
ワルサーは後にP38だけでなくライフルまで開発に乗り出すのだから、
余力が無い訳ではなかったと思う。そして生産が追いつかないなら、
生産ラインを増やし、外注を使って部品,組み立てを他に任せるほうを
考えると思う。
実際戦時中P38で行ったように、(やむを得ないとはいえ)他社に全て製造
させることも出来た。
もしナチスが他社に“同じ仕様の違うもの”を要請したなら、なじみの業者を
切りたくなかったか、ワルサーの競合を作って、調達価格を抑えるのが目的
だったのでは。

むしろドイツでのみ中型の高性能ピストルが進化したのは、
当時条約により大型拳銃の製造が禁止されていたら、ではないだろうか。
これに対し、ドイツ以外ではDAポケットオートの開発は進まず、
戦後になっても、H&Kや、SIG-ザウエルがまず手がけている。

ベレッタM1934とHSc。
M1934はウエスタンアームズのガスブローバックガン。
M1934はWWⅡ期のイタリア軍制式だが、
シングルアクションのシンプルな機構だ。
hsc/08

HScは戦後モーゼル社の再興に伴ってリバイバルしたが、更にモーゼルの
系譜を受け継ぐ(モーゼルの技術者が設立した)H&K社ではHK4という
380ACPから22LRまで一丁の銃で(バレル=銃身,スプリング,マガジン
=弾倉などは替える)撃てるというモデルのベースになった。
また、戦時中のライバルだったザウエルも、P230シリーズの開発に際して、
ハンマースパー形状などHScを参考にしたのではないかと思われる。

HScとSIG P232。
P232はP230の改良型で、これはKSCのガスブローバックガン。
hsc/09

[分解用ラッチ]
HScは三角状のトリガーガードに分解用ラッチが内臓されていて、
トリガーガードの内側からこれを引くと、バレル,スライドが取りだせる。
モーゼルではミリタリーモデルC96が機関部後方の突起を上げて分解
するが、この部品を前方にもっていったのかもしれない。

この分解方式は、HK4にもそのまま受け継がれ、更に、バレル固定だが
H&KではVP70の分解方式が似ている。
VP70ではラッチはフレームのトリガー上部に移っているが、
これを更に参考にしたグロック社のG17などは、同様のラッチで分離式の
バレルとスライドが外れ、やはりHScの構造に近い。

左から、グロックG17,H&K VP70,HSc。
G17はタナカのモデルガン。VP70はMGCのモデルガン。
hsc/11

[スライドストップ]
自動装填式拳銃の多くは、全弾撃ち尽くすと、スライドを後退位置で止める
スライドストップという部品が組み込まれている。
HScのスライドストップは、マガジンを交換すると、自動的に解除され、
スライドは前進して初弾をチャンバー(薬室)に送り込む。
これはPPのスライドを少し引いて解除する方法より進んだ形だ。

もっとも、この方式はチャンバーに装填せずに持ち歩きたい、という向きには、
過剰な装備かもしれない。
HScでは、スライド前進には空マガジンを再度挿入するしかない。
また、このスライドストップは、M1910からの伝統のようで、マガジン
セフティ(弾倉が入っていないと引き金が引けないようにする安全装置)を
兼ね、ワルサーとは反対側を通っている。

そしてHScでは部品の多機能化を進め、エジェクター(空ケースを外に
排出するときに当てる場品)を兼ねているようだ。
HScは生産性を上げるため、プレス加工の部品を多用しており、この
スライドストップもプレス加工パーツである。

[コック&ロック?]
これらの機構をみていくと、HScはチャンバーに装填した状態で使うこと
(コンディション1)を基本としているのではないかと思える。

サムセフティもハンマーはデコック(落とす)できず、セフティをかけてから
トリガーを引き、ハンマーを落とす、という怖い(実際には安全だが)操作を
しないとDAで使えない。
ワルサーPPは逆にコック&ロック(ハンマーを起こして、セフティをかけておく)
では使えないが、DAのみでも、更にセフティを掛けても良く、チャンバーを
空にしておくのも容易だ。

また、ローディング・インジケータもPPは持っており、これでチャンバーに
カートリッジが入っていることを知らせるので、チャンバーへの装填が不要か
すぐに判断できる。

[スナッグプルーフ]
HScのサイトは、スライド上部をアール状に抉ったところに付けられ、
ひっかかりにくくなっている。

FN M1910,HSc,ワルサーPPK/Sをマズル(銃口)側から。
PPK/Sはマルゼンのガスブローバックガン。
M1910とHScでは、フロントサイトがアール状の凹みのなかにあるのに対し、
PPK/S(PP,PPKも)はスライド上にリブがあり、更にその上にフロントサイト
が乗っている形だ。
hsc/10

またHScはワルサーPP同様、ハンマー式の発火機構だが、
このハンマースパー(突起状の指掛け)を横から見て小さなひっかかりにくい
ものとした。
更にHScのハンマーは起こされた状態でも後方に張り出さず、
ハンマースパーの前部が長くとられ、ファイアリングピンがのぞくこともない。
ワルサーPPではリングハンマー(これはモーゼルミリタリーでも使われている)
だったが、ポケットの中から発射するような緊急の事態ではHScが
有利かもしれない。
また、よくハンマー露出式の拳銃を撃てなくするために、
ハンマーの前に指をおいて、とかいわれるのだが
(このようなワザが実際に有用かは疑問だが)、HScには通用しない。

PPK(手前 マルシン モデルガン)とHScでハンマー形状の比較。
hsc/05

マガジンキャッチはPPも初期にはフレーム下にあり、これとHScは同じだ。
側面はサムセフティくらいしか操作レバーが出ておらず、実にシンプルな
外観を実現している。
セフティはPPより上下方向は薄いが厚み方向は中央部が盛り上がって
いる。
しかし、スナッグプルーフの要素として言われているトリガーガード前の
三角部分は、抜くときにはあまり関係ない。

[エルゴノミクスよりデザイン重視?]
HScは厚み方向は突起も少なく、グリップも角は丸められているが平らだ。
しかし、横から見ると前後,上下方向に厚みを感じる。
そして使用感として太い、という話も聞く。実際手にしてみると、PPなどと
そう違わないように思えるのだが。

グリップ後部の大きなふくらみを持たせた曲線は美しいが、少し過剰で、
グリップとしてはちょっと握りにくいと評されることもあるようだ。
グリップ形状は以前のM1934から下拡がりであり、トリガーガードの
デザインとバランスをとって下広がりのこの形にされたのかも知れない。
もっとも、HScを元にしたHk4では、更にグリップが太くされた、との記述も
見られる。

そして、トリガーの高さに対し、手のウェブ(親指と一指し指間の水かきの
ような部分)が当たる部が低く、
これも違和感を生むもとになっているのではないだろうか。

多くの拳銃では、フレーム後部はウエブをハンマーから離すよう、
盛り上がる形にしているが、HScはそれを止め、ハンマー構造上の制約
からか、ストレートに後部を落としており、張り出しが少ないハンマーにも
かかわらず、ウェブが挟まれやすい。
但し、下がふくらんだグリップとこのフレーム後部、言われる程には
特異な握り心地にはなっていない。

また、HScはスライドのセレーション(指賭け溝)が大きく傾けられ、
外観のシャープな印象を強調しているが、これも必要性(もう少し直角に
近いほうが実用的)より意匠デザインから来ているのではないだろうか。

SIG P232(手前)とHScでも、ハンマー形状の比較を。
スパー(指掛け)形状はよく似ている。
しかし、P232はスライド後部の上に位置し、フレームには手とスパーの
干渉を避ける、後方への盛り上がりが大きめ。
hsc/06

[1/6]
ここらで今回の1/6を。
いつものように、これも単品で入手したもので、出処は分からないが、
金属製で、グリップも木製風に塗られ、スライドのセレーションやセフティ,
グリップ下のマガジンキャッチなど、各部が精密に再現されている。
hsc/12

[拡大,発展]
HScがワルサーのDAを使えなかったのは、パテント回避によるものかも
知れない。
これが使い勝手の面でワルサーPPより良い、とはいかず、PPを
凌駕できなかった理由かもしれない。
また、PPはPPKという派生モデルを生み、更に大型のP38へと技術を
応用していったのに対し、全く拡がりを見せなかった。
これは既に時代が戦時中のことであり、モーゼルではP08を密かに
製造していたり、もあって余裕がなかった、という事情もある。
もちろん、逆に戦争によって需要があったため、HScを短期間で25万丁を
作ることができたのかもしれない。

モーゼルの技術者E・ヘッケラーとT・コッホは、第二次世界大戦後H&K社を
興し、独自性の高い商品を送り出した。
H&KはHk4でHScをベースとしながら、更にプレス加工でスライドを成形,
プラスチックをフレームの一部とするなど、大幅に作り方を変えた。
Hk4を巡っては法廷闘争も行われたそうで、HScのコピーが許されなかった
から、という要因もあるが、やはり新進メーカーとして過去のものの焼き直し
はしたくない、という気持ちもあったと思う。
現在はそれも一巡したのか、H&Kは奇をてらうことなく従来ある技術を使った
オーソドックスなものを作ってきているが。
H&K発足時のオリジナリティへの拘りは、もしかするとモーゼル時代に
制約が多く、技術者が充分ウデを発揮できなかった反動なのかもしれない。

現在ではワルサーの影に隠れている印象が強いが、それでも戦後
モーゼルがP08と共にこのHScを復刻したのは、やはりこの美しさゆえ、
ではないだろうか。

では今回はここらへんで。
hsc/13

参考資料; ShootingTips 「Streamlined Hsc 流線型HSc」
        月刊Gun1989年 4月号「モーゼルポケット・ピストルM1910」
        月刊Gun1998年 5月号「Mauser HSc&Hk4」
        頑住吉元ガンスミスの部屋 Hk4実銃について 「Hk」訳

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